原作「秘密の花園」とニュージェネレーションズ――アニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」21話感想
アイドルマスターシンデレラガールズ21話が放送・公開されました。
今回は20話でソロ活動を始めた本田未央にスポットが当てられた回で、ストーリーもさることながら、個人的に結構好きだったのが、オーディションで未央が勝ち取った舞台「秘密の花園」のセリフをなぞる演出。アニメアイドルマスター(無印)の24話でも同様の演出がありましたが、その時は劇中オリジナルの舞台でした。しかし今回は原作があります。
そこで原作小説と比較しながら、21話の劇中劇を読み取っていきたいなと。
また原作から表現が変わってる部分が当たり前ですが多々ありますので、該当すると思う場所を勝手に推測して当てはめています。ご了承ください。
「秘密の花園」あらすじ
『秘密の花園』(ひみつのはなぞの、The Secret Garden)は1911年に初版が発行された、フランシス・ホジソン・バーネットによる小説。
インドで両親を亡くしたメアリは、英国ヨークシャーの大きな屋敷に住む叔父に引きとられ、そこで病弱な従兄弟のコリン、動物と話ができるディコンに出会う。3人は長いあいだ誰も足を踏み入れたことのなかった「秘密の庭」を見つけ、その再生に熱中していくのだった。
冒頭、舞台のオーディションのシーン。
未央「変な館に、周りにはなにもない荒野! まったくひどいところだわ! わたしのいた国じゃ、服の着替えから何からみんな召使がやってくれたのよ! 私の言うことは、なんだって!」
原作:インドで両親を失ったメアリがイギリスの叔父の屋敷に引き取られたその日、世話役のマーサとの会話のなかでのメアリのセリフ。
主人公メアリは、イギリスの叔父に引き取られる前は実家で部屋に閉じ込められるように生活していた。ただし黒人奴隷の召使がインドの屋敷にはたくさんいたため、身の回りの世話を自分でしていたことがなく、自分で服の着替えもしたことがなかったのだ。まあつまるところのお嬢様。「私のいうことは、なんだって」というセリフからも伺えるように、メアリは大変我儘で気難しい少女なのである。
本編内では終始、未央が演じる役は主人公であるメアリである。ということは役者としての初めてのオーディションで主役をつかんだということで、演技の才能があったということなのかなと。我儘という部分は置いておいても、気難しい部分を持ち合わせているといった点は、本編中の未央と重なるところがあります。(7話とか)
藍子・茜を含めた稽古のシーン。
茜「そんなことは自分でやることさ。それにね、あんたのいうようになにもないわけじゃあない。外には宝物が一杯さ! あんたには、それが見えないだけ!」
未央「見えないですってえ!」
原作:(たぶん)冒頭のオーディションのシーンと同様、マーサとメアリの会話。茜がマーサで未央がメアリ。
メアリは屋敷に来た当初、マーサにムーア(湿原、屋敷の外の風景)を好きかと聞かれて、「嫌い」「大嫌い」と言い放つ。おそらくそのあとの会話です(原作に同様のシーンがないが会話の流れ的にここしかないだろう)。「あんたには、それが見えないだけ」同じく7話で観客が見えていなかったこと、または20話でNGsにこだわる→外をみようとしない未央を連想させます。
この後、ソロデビューという形でNGsの外に出て、見えないものをみようとする⇒凛と同じ景色をみようとするというところにつながってくるのかもしれませんね。
Aパート最後、稽古シーン。
未央「コマドリさんは、ここが秘密の花園だって教えてくれたわ。でも大丈夫かしら、みんなすっかり枯れちゃって……」
藍子「何を言うんだい? ほら、あの青々とした木の上(芽)を見てごらん」
未央「これ、生きてるの? じゃあ、あのバラは?」
藍子「俺らと同じさ、ぴんぴんしてるさ」
未央「バラは、この花園は、生きているのね!」
原作:マーサの弟・ディコン(Dickon)をメアリが秘密の花園に入れたときの会話。長い間手入れされず荒れている花園をみたメアリは、ディコンに協力を仰ぎ、秘密の花園の復活を考えいる。藍子がディコン役、未央はメアリ役。
タイトルにもなっている「秘密の花園」は、屋敷の庭の中にある壁に囲まれて入れない庭園である。そこは亡き伯母が生前大切にしていた場所だったがあることをきっかけに彼女の死後、伯父の令により閉じられていた。コマドリの導きにより土に埋められた鍵と、蔦に隠された扉を見つけたメアリはこの打ち捨てられた花園に「秘密の花園」と名付けて、自分で花園を復活させようとしています。引き取られた当初のメアリは不健康でやせ細っていたが、このころになると庭を駆けまわっていたこともあって徐々に健康的にふっくらと、そして社交的に人と関わるようになっていて、人間としてだいぶ成長しています。
7話以降の未央の成長と重なります。もともと未央は社交的でしたが、No_makeの8話ではエンジニアの人に相談しに行っている様子が、18話では奈緒や加蓮に対して世話を焼く様子が見受けられます。
そして極めつけはソロ活動の決断でしょう。理解するために、リーダーとして一歩進む決意をした。
そしてこのセリフの後に、未央がなにかをつかんだようなカットが入ります。
未央にとってすれば、凛のトライアドプリムスへの参加は、枯れた庭園を見つけたときのメアリの心境と重ねあわせることができます。メアリは庭園を見つけたことを喜ぶ一方で、もしかするとこの庭園は花も何も枯れ果ててしまっているのではないだろうかと不安を感じます。NGsが一緒でいられなくなるのではないかという不安を未央は感じていたのではないでしょうか。
そしてわからないから、確認しようと決める未央は、舞台のこのシーンで庭園が生きている可能性を、NGsの将来の可能性を重ねあわせたのではないでしょうか。
……というか少年役の藍子ちゃんとかすごいよくないですかどうでもいいですかそうですか……。
屋上の庭園でのNGsでの演劇①
未央「あんたみたいな勝手な人なんて、もう知らないわ!」
卯月「坊ちゃま、落ち着いて……」
凛「僕はもう生きられないんだ、ベッドから動けなくなって……。僕はもう春が来る前に」
卯月「ああ、可哀想な坊ちゃま……」
未央「馬鹿ね、あんたはちっとも弱ってなんかないじゃない! あんたの病気の半分は、あんた自身よ! 自分に呪いをかけてるんだわ!」
卯月「ああ、メアリさんなんてことを……」
原作:このシーンで凛が演じているのは、メアリに秘密にされていた伯父の息子(メアリーの従兄)・コリン(Colin)。生来病弱でベッドからほとんど出たことの無い彼は、メアリと同様両親に愛された記憶の無い少年。メアリ同様に彼も、我儘で気難しく、やせっぽちで、秘密の花園のもう一人の主人公です。そんなコリンが仲良くなったメアリにほったらかしにされて喧嘩になり、その夜ヒステリーを起こした時の会話。メアリはヒステリーを鎮めるためにコリンを怒鳴りつける。*1未央=メアリ、凛=コリン、卯月=看護婦。
20話をなぞっているような会話。
勝手な人=相談もなくトライアドへ参加を決めた凛。
動けない、春が来る前に→秋・冬のライブとNGsとトライアドのなかで葛藤している凛。
呪い→NGsでありCP。気を使って動けない様子。(ちなみに原作では「呪い」ではなく「ヒステリーとかんしゃく」である)
看護婦(卯月)→メアリ(未央)とコリン(凛)両方を気遣っている、どっちつかず。
(原作だとコリンに負けず劣らず我儘で傲慢ちきなメアリをぶつけることによって、看護婦たちはそのヒステリーを抑えようとするという描写が入っています。卯月は振り回されているようにも……)
メアリとコリンはとても似ていますが、メアリの方が早く成長していきます。我儘な性格はそれなりに穏やかに、やせっぽちだった体は健康的に、薄かった髪はふんわりと、そして仏頂面で不機嫌な顔しか見せなかった表情は、新しいものに出会っていくことで次第に笑顔を張り付けるように。
凛と未央も同様です。未央の方が早くソロ活動を開始、一足先に葛藤を乗り越えて、新しい一歩を踏み出し成長していきます。一方で凛は前回からずっと葛藤してまだ前に進めていなかった、と。
屋上の庭園でのNGsでの演劇②
凛「僕は君と違って、体も弱くて……本当に外に出られるの……」
未央「私だってここに来たときは体も弱くて……それに外だって大嫌いだったわ」
未央「でも、マーサやディコンが教えてくれたの! 外は宝物でいっぱいだって!」「 そうよ!」空は高くて、ハリエニシダやヒースやバラが芽吹いているの……外の空気を、いっぱいに吸って!」
凛「僕も、いっぱい吸えるかな……」
原作:ここは流れとして①と原作だと繋がってないんですが、初めてコリンとメアリが話したシーンに近いかなと。ここからのシーンは原作かなり改変してます。ちなみにコリンはベッドに寝たきりで、移動は車いすで行っています。未央=メアリ、凛=メアリ。
ここからはたぶん21話から。
本当に外に、トライアドとして活動していいのかと不安に思う凛。外が、NGsがダメになることが嫌な未央。その中で一歩踏み出した未央は、そこから見える景色を演劇のセリフに込めて語り、凛も一歩進もうとします。
演劇中のシーンにはありませんが、コリンは「「秘密の花園」に入れたらきっと大きくなるまで生きられると思う」というようなことを原作だと言っています。
屋上の庭園でのNGsでの演劇③
未央「そう、私には冒険だった」
凛「僕は、君のみているものをみたかった」
卯月「コマドリの呼んでいるあの花園!」
凛「なんて美しいんだろう、僕はもっと早くに、ここにくるべきだったのに」
原作:コリン、メアリ、ディコンの3人で秘密の花園に入るシーン。メアリはコリンに、秘密の花園を見つけるまでの話を実際にその場所を示しながら話していきます。そして花園に入ったコリンは、今までの彼とは別人のような少年の笑顔を見せます。未央=メアリ、凛=コリン、卯月=メアリorコリン(?)。
ここで卯月の役どころが微妙にわからなく。「(ここが)コマドリの呼んでいるあの花園(です!)」ならメアリだし、「(ここが)コマドリの呼んでいるあの花園(か!)」ならコリンとも取れます。あいまいな立ち位置。でもどちらでもないのかなとも思います。
君というのは未央とも取れるし、階段を先に上りきった加蓮とも言える……?
もっと早くに、というのはトライアドとして一歩を踏み出すか否か、呪いを早く振り払うべきという意味かなと。
屋上の庭園でのNGsでの演劇③
未央「うん、ごめん。待たせて」
未央「大丈夫、これからだもの! 明日も明後日も、ここに来ましょう!」
卯月「そうさ、春の次は夏、その次の秋も、冬も。ずっと、ずっと……」
原作:待たせて、というセリフは原作にはありませんのでアドリブ。加えてその次の秋も、冬も、というのも原作にはないので改変ですね。未央=メアリ、卯月=コリン。
ここ、とはどこだろう。未央のいう“ここ”に卯月はいるんだろうか。
冒頭、凛の「未央、待って」への返答かしら。なんでソロ活動したのかという。
待つ、というのは意外と重要な表現のような気がします。リーダーとして、ここに連れてくるのが遅れて、待たせてごめん、という意味なのかなと個人的には思います。
屋上の庭園でのNGsでの演劇④
未央「恐れずに踏み出せば花園は、私たちを待っていてくれるわ!」
凛「花園は生きる輝き」
卯月「花園は魔法の場所」
All「花園は、私たちの心」
原作:花園は原作のなかでいろいろなものに暗喩されます。魔法、生命etc......。ここでの答えは私たちの心でいいんじゃないかと思います。荒れていた花園は立派に花を咲かせますし、この後コリンは、秘密の花園に通うようになり、メアリと同様に健康的に愛想よく、車いすから自分の足で立てるまでになります。だからこそ、花園は生きる輝きであり、魔法の場所足り得るのです。
全体を通して色々
・配役
劇中劇の配役は
- 未央=メアリ
- 凛=コリン
- 卯月=看護師・コリン・メアリ
といった感じになっています。
固定化されている配役は凛と未央のコリンとメアリ。そして秘密の花園の主人公は、コリンとメアリの2人。
故に21話の主人公は、一歩先へ進もうと決意した凛と未央であると言えます。
他方、卯月は今回は主役のセリフを言うこともありますが、基本的には脇役がメインになっています。脇役は主役を一歩進ませることを助けることはあっても、自分が一歩進むことはありません。彼女らの道を妨害するわけにはいかないのです。だから今回は先に進めませんでした。
・なんで突然の劇中劇なのか
A.演出
まっとうなコミュニケーションは20話の時点で一回失敗していること、また言語化して話せる状況じゃなかったということなのかなあと。何故ソロ活動を開始したのかという問いをなんども投げかけられているにも関わらず、その答えを避けていることから推測できるかと思います。
どうして自分がソロ活動を開始したのか、という問いに関して、実際に見てもらった方がいいと考えるのはわりと自然じゃないでしょうか。パッション属性ですし、衝動的に動いてる可能性は高いですね。
今後の展開予想とか
22話は渋谷凛回、秋の定例ライブできっといい笑顔を見せてくれるはずです。
そしておそらく23話は島村卯月回でしょう。今回も一杯爆弾ばらまいていきましたしね……。
卯月に関しては、普通の女の子、というのがキーワードになってくると思います。
シンデレラに憧れるだけの、シンデレラストーリーに憧れるだけの女の子。王子様を待つだけの普通の女の子、それが島村卯月です。
プロデューサーがかぼちゃの馬車であるならば、シンデレラストーリーに登場する王子様は美城常務です。そして島村卯月は、王子様に選ばれることはありませんでした。
あくまで島村卯月を選んだのは、かぼちゃの馬車たるプロデューサー。であるならば、その馬車を動かすのはだれでしょうか。それはきっとシンデレラその人です。
だからこそ、島村卯月は一人で立ち上がり、進むのだと思っています。待つだけのプリンセスから、自分から前進する王子様へと。
とか漠然と思っているのであまり暗い話にはならないんじゃないかなあとか考えています。なにしろ「生ハムめろーん」が楽しみでならないので最終話が楽しみですはい。
以上、原作「秘密の花園」とニュージェネレーションズ――アニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ」21話感想でした。
記事を書く際に読んだのは光文社古典新約文庫版になります。
ちなみに英語版なら無料で読めますよ。
おわり。
*1:ヒステリーの原因は思い込みだったりします。背中にこぶができて死んでしまうのではないかと不安になったコリンは、どうせ死ぬんだとヒステリーを起こします。メアリは無理やり背中を確認してこぶなんかないと声を荒げます。やせ細って背骨が出てきたのを、こぶだと勘違いしていたのです。